「気づかせてくれるのはいつもきみで」


「ガウリイ。ちょっと、話があるの」
ノックが聞こえた宿屋の扉の向こうから、リナの声が聞こえた。オレが剣の手入れを止めずに開いてるぞーと声をかけると、防具を外した軽装のリナが入ってくる。
「どした? 進路でも変更すんのか」
「んーん。そういうんじゃ、ないんだけど・・・」
リナが言い淀むなんて珍しい。オレは剣から顔を上げてリナの顔を見ると、何だかすごく緊張した表情をしているのに驚いた。毎日続けている剣の稽古の時の表情に近い気もするけど、ちょっと違う。
「おいおい。ほんとーにどうしたんだよ? あ、さてはまたどっかで魔族にケンカ売ったのか? 仕方ないやつだなー」
「売ってない! またとか言うけど、一度も売ってないし!」
「ああそうか。あっちから売ってきたのを買ったのか」
「買いたくないのに買わされたのよ! あ、いや、だからそーゆーことを言いにきたんじゃなくて」
一瞬素に戻ったリナだったが、すぐにまたうつむいて、今度は口をつぐんでしまった。オレは滅多にないリナの行動に目を丸くするばっかりだ。
「本当にお前さん、どうしたんだよ。どっか具合でも悪いのか?」
「・・・えーと、ゼフィール
=シティに行くのなんだけどさ」
「なんだ、道を忘れたのか」
「あんたじゃないんだから、んなことあるかいっ! ・・・あーもー、お願いだから、静かに話聞いてて」
「おー。悪い悪い」
「・・・ほんとに行くの?」
「なんだよ。帰りたくないのか?」
「そーじゃ、ないんだけど。その、あんたがどーゆーつもりで、あたしの実家に行こう、なんて言ったのか、理由くらいきいておこうと思って、さ」
「あー、まあ、何となく」
お前の故郷をみてみたかったからなんだけど。
と、声に出して言う前に、リナは飽きれたように肩をすくめた。
「そーゆーと思った。・・・でもさ、あたしが実家帰ったら、あんたどーすんの? ウチ来るの?」
「そりゃ、挨拶くらいには行くけど。でも、お前さんのところって、例のお姉さんとお前の姉妹だろ? 泊めてもらうわけにはいかんだろーなー」
「・・・でさー、ガウリイ? あんた、あたしの家族に何て挨拶するつもりなわけ?」
「そりゃ、オレはお前の保護者ーー」
「ほんとーの保護者に、保護者ですって言う気?」
「ーーーおお! それもそうか。じゃ、旅の相棒でいいだろ。事実だし」
「う・・・うん。そ、そうよね」
リナはそう言いながらも視線をちょっとさまよわせて、せわしなく部屋をうろうろした後、オレが腰掛けているベッドの隣にぽすりと座った。
「あ、あんたさ。あたしのこと・・・そ、その。ど、どーゆーふーに思ってんの?」
何だか縋るような目で見てくるリナの視線を受けて。
オレはそういうことか、とようやく悟る。
「なんだ、リナ。
ーーー誰かにわるぐち言われて気にしてるのか? らしくないぞ。たしかにお前さんは極悪非道で傍若無人な非常識が服きて歩いているよーなやつかもしれんが、いいところもそれなりに・・・」
「だぁああああれがそんな話をしたあああ!!!!」
今度こそすぱーんっとスリッパで頭をはたかれた。
「あれ。違ったか?」
「違う! だ、だから、あたしのこと、相棒だとは思ってんのよね?!」
「当たり前だろ」
「う。・・・じゃ、じゃあ。相棒とは違う意味では、何か考えたり感じたりすることない?」
「相棒じゃなくて? ・・・被保護者、か?」
そう言うと、リナは何だか今にも泣きそうな顔をして俯いてしまった。小さな体が、一層小さくなった気がした。
あ、あれ? オレ、何か言ったか?
慌てたオレは、手に持った剣と道具を適当に机の上に放り投げて、リナの肩を摑んだ。相変わらず、リナの肩をはちっさくて、あんなに食べてるのにちっとも肉付きがよくならないのを今更ながら不思議に思った。
「り、リナ? 本当にどうしたんだよ。オレに何が聞きたいんだ? そ、そうだ。リナはオレのことどー思ってるんだ? 答えのヒントくれよ、な!」
オレが珍しく考えて言ったそのセリフを聞いて、リナは顔を上げて、目をまあるくした。そのすぐ後に、顔を真っ赤にして、あー、とか、うー、とか唸り声を上げる。
「お、おい、リナ・・・?」
「・・・き・・・・」
聞いたこともないようなリナの小さな声に驚いて、聞き逃さないようにリナの口元に耳を寄せる。
「・・・す・・・」
小さく声を上げるリナの体をよく見ると、震えているのがわかった。顔が真っ赤で、本当に具合が悪いんじゃないかと心配になる。
「り・・・」
「ーーーすきよ」
リナが顔を上げて、オレのことを見ながら掠れた声でそう言う。オレは一瞬、動きを止めた。
すき。
リナが、オレのことを?
知ってたけど、リナに改まってそう言われたのが嬉しくて「そーかそーか。オレもだぞ」と言ってリナを撫でようと、頭に手をかざしてーーー寸でのところで思い留まった。

いやいやいやいや。まてまてまてまて。

女の子が、体震わせて顔真っ赤にして「すき」って言ってるんだぞ。こりゃ、そうしちゃダメなところだろ!
ギリギリ気づいたオレは、リナに宿ごと消滅させられるという未来を食い止めることができた。すごいな、オレの野生の勘。

自分で自分を褒めながら、オレは先ほどのリナのセリフを反芻してみた。
すき。
そーかあ。リナが、オレのことをねー。ふーん。
「・・・ちょっと。何とか言いなさいよ」
オレの長い沈黙に耐えきれなくなって、リナは眉を上げて睨みつけてくる。顔が真っ赤で可愛くて、そんなのちっとも怖くないが。
「さっきからにやにやして! 何なのよ、この脳みそ歯磨き粉!」
「あれ、オレそんなに笑ってる?」
「気持ち悪いくらいね!」
そう言ってリナは不機嫌にそっぽを向いてしまった。けれど、オレは本当に笑ってる自覚なんてない。

ただ、なんかこう、嬉しくて。

じわじわーっとくるものがあって、どうしたらいいのかわからない。顔がにやけて仕方ないし、何だか心臓の動きが早い気がする。
もしかしてオレ、舞い上がってないか?
そこまで考えて、 ああー、そっか、と一人で得心した。
オレは改めて、リナの頭をぐしゃぐしゃになるくらい撫でた。
「ちょ・・・やめ」
「オレもさー、すきみたいだ」
そう言うと、リナは一瞬泣きそうに表情を歪めて俯いてしまう。その小さくなったリナの身体ごと、ぎゅっと腕に抱き込んだ。抱き込んだリナの身体が強張るのを感じたので、できるだけ優しく力をいれてやる。
「が、ガウリイ・・・?」
「うん。オレも、すきだ」
その言葉の意味を味わうようにゆっくりと声に出して言ってみると、途端に恥ずかしさに襲われた。けれど、今リナの顔はオレの胸に押し付けてるから、どれだけにやけても照れて赤くなっていてもバレたりしないので、まあいいかと思う。
リナはリナで耳どころか全身が真っ赤になっていて、きっとオレの様子になんか気がつかないだろうし。
流石に、これだけ照れているのがリナにバレるのは・・・後が怖い。ただでさえ尻に敷かれているとか周りから言われているのに、こんなにすきだとバレたら惚れた弱みで立場がなくなりそうだ。
「ガウリイ、ほ、ほんとに・・・? い、今までそんな感じに見えなかったんだけど・・・?」
「ああ、そりゃそうだ。・・・オレも今気が付いたし」
「・・・おい・・・」
「だってな、お前さんに付き合えるのはオレくらいだろうと思ってたし、オレくらいはずうっとお前の味方でいようと思ってたんだぜ。どこに行くにも一緒だし、理由なんかいらないって言っただろ? 理由が必要ならお前が決めるし。
・・・だから、わざわざお前と一緒にいたいと思う理由なんか、考えたことなかった」
そう言うと、腕の中のリナはオレを呆れた表情で見上げた。まだ顔真っ赤だけれど。
「・・・あんた・・・何にも考えてないのは知ってたけど・・・そこまでとは思ってなかったわ・・・」
「いやー、実はオレも」
リナが態勢を利用してオレの顎に強烈な頭突きをかます。ごすっと鈍い音がして、結構痛い。でも、顔は多分にやけたままだと思う。だって、リナが嫌がったりせず、ずっと腕の中にいてくれるから。そのちっさくてほそっこい感触が、すごく嬉しい。
「オレ、リナがすきだったんだなー」
「・・・うっさい」
「リナも、オレがすきなんだなー」
「・・・ううううううっさいっ」
照れ屋のリナが思いっきり動揺するのが面白くて、幸せでにやにやが止まらない。
「・・・ありがとな、リナ」
「・・・・・・うん」
すきって言ってくれて。
気持ちに気づかせてくれて。
そんな感謝の気持ちを込めて、オレはリナの額にちゅとくちびるをくっつけた。
その瞬間ーーー
どぐふぅっ!!!
オレの左脇腹にリナの右足がめり込み、オレはベッドから転げ落ちて身体をくの字に曲げて悶絶する。かなり。かなり痛い。
「ぐ・・・り、リナぁ?! いきなり蹴り入れるたぁどーゆーつもりだ!」
「うっさいバカガウリイ! ちょーしにのるなあああ!!!」
顔を真っ赤にしてそう叫んだリナは、どすどすと足音を立てて部屋から出て行ってしまった。
デコちゅーでそりゃねーよ、リナァ・・・。
こりゃ、くちびるにキスなんかした日には殺されるな。
両思いだっていうのに、果てしない道のりを感じてしまう。でも、やっぱりにやにやは止まらなかった。

うん、まあ。ずっとリナと一緒にいるんだから、時間なんていくらでもあるよな。

そう考えて、もう今日は考えるのはこれくらいにしようと思った。ベッドに戻って、リナが可愛かったのを思い出しながら眠ろう。
おやすみ、リナ。


「気づかせてくれるのはいつもきみで」Closed.


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この記事へのコメント

ぺけ
2011年09月02日 23:58
思わず笑ってしまいました。
自然に白いガウリイ素敵(笑)

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