恋を叶える魔法



春美は、見てしまった。成歩堂法律事務所のお使いで地方検察局へ向かい、そこで――
御剣が女性と歩いているのを。
黒い髪をアップにした、上品そうな美女だ。年齢も、御剣と同じころか、少し下か…いずれにしても、釣り合いが取れていた。
「それでは御剣さま、また後ほど」
「うむ。…ム、春美くんか?」
女性と別れる間際なのに、御剣は見掛けた春美に声をかけてきた。女性はさぞ面白くないだろうな、と思いながら、春美はかすかに笑顔を見せる。
まぁ、春美は嫌な子ですね。
自省しながら、御剣に歩み寄った。
「こんにちは、みつるぎ検事さん。なるほどくんからの資料です」
「わざわざすまないな。…ああ、こちらの女性は、以前事件で知り合った方だ。別に怖いひとではないよ」
春美が人見知りする質だと知っている御剣は、女性をそう紹介した。女性が柳眉を少し歪めたのが見えたので、春美は慌てる。
「わ、わたくし、もう小学6年生ですもの! 子ども扱いなさらないでください!」
すると、御剣は苦笑した。
「…同じ年頃の女の子は、みなそう言うのだな。昔、メイにも同じことを言われたよ」
そう御剣が呟くと、後ろの女性はますます泣きそうな顔をする。
ああ、そうか。この女性はやっぱり。
「み、御剣さま? 私は一度部屋に戻りますから…」
「ああ。すまないな。せっかく訪ねてくれたのに」
女性は悪気のない御剣の言葉に僅かに微笑んでタクシーに乗り込んだ。 春美はタクシーを見送る御剣に近付いて、訪ねた。
「今の方と、お付き合いされているのですか?」
すると御剣は驚きに目を見張って、春美くんはおませだな、と言った。
「検事さん。わたくしに、見られたいのですか?」
こころのなかを。
春美の大きく澄んだ目を見た御剣は、少女が不思議な力を持っていることを思い出した。それでも言い難いのか、わざとらしい咳払いを繰り返す。
「ウウム…まぁ、そう言えないようなこともないのか…どうかな」
その御剣の仕草が、まるで高校に通う近所のお兄さんみたいで、春美は笑った。泣きそうになったけれど、笑った。
「…かわいそうな、みつるぎ検事さん…」
小さく呟いた春美の言葉は、御剣には届かなかった。
「何か言っただろうか?」
「いいえ、何も」
「そうか。ああ、春美くん、資料を届けてもらった礼に、お茶でもご馳走しよう」
「まぁ、ありがとうございます!」
笑顔で御剣の後を追いながら、春美は暗い思いに沈んだ。
今、御剣があの女性を追いかけなければ、彼らの恋は終わるだろう。あの女性は、嫉妬していたから
――狩魔冥という女性に。
きっと今まで、彼の口から彼女の名前が出る度に、胸が締め付けられて、涙を堪えたはずだった。
そのことを彼に伝えれば、すぐに駆け出して行くだろう。それくらい、きっとあの女性は愛されている。けれど。
春美は、春美の歩幅に合わせて歩いてくれる御剣の手を握った。
この指にあるはずの赤い糸が、どうか自分とつながりますように。
だから。だから、彼女と彼が、思いのすれ違いで傷付く未来がわかっていても。この口は、真実を伝えない。

ああ、お母様。春美はやはり、あなたの娘です。

春美がギュッと大きな手のひらを握り締めると、御剣は少し機嫌が良さそうに笑った。
「春美くんは、もっとこんな風に甘えるといい」
御剣の声に泣きそうになりながら、春美は顔を上げた。
「あまり、子どもを甘やかしてはいけませんよ。みつるぎ検事さん」
 いずれ、大変なことになるのだから。


「恋を叶える魔法」Closed.

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック