きみはヒーロー



 なるほどくんと真宵さまが、「おはぎがたべたいなぁ」と言っておられたので、わたくし、お使いにきました! なんて、本当はお二人きりになれるように、お邪魔虫は退散しただけなのですけど。ひとりぽっちは得意ではありませんが、お二人のためならへっちゃらです!
 おはぎを買って、少し寄り道して時間を潰そうと大通りまで出ました。すると、遠目からでもわかる緋色のスーツがゆったりと歩いています。
「みつるぎ検事さん!」
声をかけると、振り向いてわたくしの姿を探してくれます。わたくしは思い切り手を振って走り寄りました。
「こんにちは、 検事さん! お仕事ですか?」
「む…。これから、ちょうど成歩堂のところへ行こうと思っていたところだ。春美くんはお使いかい?」
「はい! おはぎなんです。たくさん買ったので、事務所に着いたら皆でいただきましょう?」
「…そうだな」
 みつるぎ検事さんは、口角を上げてわたくしの頭に手を置きました。わたくしは、不思議に思って検事さんを見上げます。
「まだ日が高いのに事務所に来られるなんて、珍しいですね」
真面目なこのひとが、仕事時間中に弁護士事務所へ訪れることは滅多にない。それに、普段ならわたくしを子ども扱いすることもないのに…。
「何か、あったのですか?」
わたくしの問いに、検事さんは何も応えませんでしたが、眉間のしわが深くなるのを見てしまいました。わたくしは頭に置かれた手をとって、ぎゅううっと握り締めます。
「何かおこまりなのですね? わたくしにできることは何かありますか?」
「い、いや…。その、別に大したことでは…」
「いいえ! だってみつるぎ検事さん、とっても哀しそうです!」
怜悧な瞳がしょげている。こんな彼は、自分の知っている彼ではない。
「おこまりのことがあったら、なんでもおっしゃってくださいね。わたくしは、いつだってみつるぎ検事さんの味方です!!」
 ぎゅううううっとさらに力を込めて手を握ると、検事さんの目が穏やかに変わりました。
「…ウム。…その…ありがとう…」
わたくしの手をそっと握り返してくれた検事さんは、もう険しいお顔ではありません。
それが嬉しくて、わたくしもにっこりしてしまいます。どうして検事さんが哀しそうにしていたのか、わたくしにはわからないままでしたけれど、そんなのはどうでもいいのです。
検事さんと一緒に、手をつないで事務所まで。そんな奇跡みたいな時間を過ごしているのですから。



「なぁ、御剣。今日って…」
「ああ、狩魔検事…父の方の命日だ。墓にはさっき行って来た」
「もっと落ち込んでるかと思ったけど、元気そうだな」
「ウム。…私のところに小さなヒーローがやって来て、嫌な気持ちを退治してくれた」
「…お前、特撮モノの見過ぎじゃないか?」



*    *

「まぁ、どうかされたのですか、れいじさん? おはぎとにらめっこして…」
「いや。…どうも私は昔からきみがいないとダメだったようだな、と色々思い出しただけだよ」
「まあ?」



おわる

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