マックスくん、ひとの世にぜつぼうする



あの生意気な少女が死にます。

きんいろのまき髪をたなびかせて、戦場を駆けたゆうもうな戦神。いつも敵をけちらそうとしては、みかたにはばまれて思うような布陣が敷けないと、ぷんぷんおこっては周りのみなさんにあたりちらしていた、なまいきな少女。
でも、うつくしかった。
ほんとうに、たましいまでうつくしい。そのなまいきな少女は、うつくしいからこそ、みなさんにあいされていました。
ぼくも、あいしていました。


「ジャンヌ、ジャンヌ」 マックスくんは、鉄格子をくぐりぬけて、なまいきな少女のもとへ下り立ちました。侵入するために、いくどの危機をのりこえたせいか、じまんのけなみが黒くすすけています。それでも、マックスくんはかまいませんでした。
「ジャンヌ。ここからでましょう。ぼくがそとまでエスコートしますよ」
「マックスか。来ると思ったわ」
 なまいきな少女は、澄んだ湖畔をおもわせる瞳をきらめかせました。明日にはないというのに、きらきらと命がもえています。
「あんただけじゃ、無理ね」
「そんなことはわかりません。ためしてもみずにあきらめるのですか? らしくない」
マックスくんのことばに、少女はにやりと口角をつりあげます。いつもあくどいことをかんがえているときにする、わるい微笑。
「今、ジルが兵を挙げてるころかしらね」
「そうです! ジルくんはとってもおこっていましたよ。゛一発ぶん殴らないと気が済まない" なんていっていました。ジャンくんも、とてもしんぱいしています。アンナさんもおかんむりです」
「あっはっはっは! 皆、元気そうだね」
 マックスくんはうそをいいました。ジル・ド・レイは、怒りにまかせて城をめちゃくちゃにしているし、ジャン・ジャック=ピエールは、じぶんのふがいなさに涙をこぼしていました。おさななじみのアンナ嬢は、あまりのできごとにたおれてしまっています。
 でも、そんなことはいえなかったのです。たとえこのうそがばれていると知っていても、いえませんでした。
「…みなさん、きみがかえるのをまっているんです」
あいしているから。
なのに。なのに。めのまえの少女はかがやくばかりにうつくしいのに。みんな彼女のかえりをまってるのに。
マックスくんは、おおきなお目めからなみだを流しました。
「わかるでしょ。あんたには」
あたしは、殺されるのよ。この国に。
少女の、いっそ明るいこえに、マックスくんはただなみだを流すしかありません。
「王はあたしを殺すことで、平和とやらを手に入れたいのよ。束の間だとわかってるのに、ね。だからジルは兵を挙げられない。国王軍に阻まれるでしょう。ここに、ジルはこない」
湖畔のひとみは、いっしゅんだけさみしそうにゆれました。
マックスくんは、いやいやと首をふりふりします。
「きみが、そういったからです。゛国王には手を挙げるな"と。でなければ、たとえシャルルくんがあいてでも、ジルくんはここへきました。だれを、どれだけしなそうとも、きみをたすけにきました!」
「…あの変態が兵を挙げて国王とケンカしたら、大きな内乱になる。あれでも将軍だからね」
「きみは、そこまでかんがえていたのですか?」
「ジルがあたしのいうこと聴くかどうかはわからないわ」
「いいえ。きみはしっていました。ジルくんは、きみをあいしています。きみのことを、唯一無二のパートナーだと、きみをしんじていました」
マックスくんのかすれたさけびに、少女はただだまってほほ笑みました。
「みんなのところへかえりましょう。そして、むらへかえりましょう。ジャンくんも、きっとジルくんも、おしごとをすててついてきてくれます。ねえ、ジャンヌ?」
「……」
「なにかいって、ジャンヌ」
「…あんたには、わかってるでしょう」
ああ。ああ。どうにもならない。
この少女は死ぬのだ。自らの知能と勇気と行動力のために。
「ヨランド・ドゴランは? かのじょにたすけてもらいましょう!」
「マックス、こら、うさぎ」
「いや。いかないで、ジャンヌ。きみさえいれば、みんなつらくてもたたかえる」
「…もう、闘わなくていいのよ。 あたしが死ねば、イギリスとはほぼ休戦状態になる。みんなが生きてる間に、戦いにはならない」
やっぱり、そんなこざかしいことをかんがえていた。そんなのは、彼女らしくない。
「きみがそんな殊勝なこというなんて、あしたにはせかいがこわれますね」
「…アンナの実家は領主よ。無茶すれば、あの子が帰る場所がなくなる」「…ひとじちですか…!」
なんてこと!
怒りに毛をさかだてるマックスくんでしたが、少女はほほ笑むばかりです。
「あのやわな国王は、そんなの思いもしないでしょうけどね。周りはちゃんと政治家なわけだから、それくらいやるわね」
これ、アンナには内緒よ?
ウインクまでする少女に、マックスくんはぴたりとすがりつきました。
「いやです。きみなら、どんなあくどいことしても、たすかるみちをみつけられるはずです」
「…あたしはさ、神様でもマリアさまでもないのよ。ただ、すごい頭良くて、はんぱない美少女なだけ。でも…今回ばかりは詰みね。ちょっとくやしいわ。いや、ものすごくかも」
「ジャンヌ」
少女はマックスくんのながいおみみをむんずとつかみました。
「いーやー! なにするのう!!」
「衛兵!! ここにうさぎがいるわよ! このまえ一個中隊撃滅した、《白い悪魔》よ!」
雄々しくさけんだ少女は、あつまってきた衛兵のなかにマックスくんをぶんとほうりなげました。
「いや! ジャンヌ!! このままかえれません!!」
マックスははらはらとなみだを流しながら、拳一撃で屈強な衛兵を10mほどふっとばし、そのあし蹴りで3人をかべにたたき付けました。
ゆうもうなマックスくんのうごきをみて、少女はひとみをかがやかせました。
「2人に伝えて! どっちか選べなくてごめんって!! 2人ともあいしてたわ!!」
たおしてもたおしてもあらわれる衛兵をふりきりながら、それでもマックスくんのながいお耳にはたしかにこえがきこえました。
あいしてるわ。
それは、どんな《あいしてる》?
ねぇ、ジャンヌ。おねがいだから、そんななまごろしなことば、あずけていかないで。

じぶんでいって、ねぇ、ジャンヌ。

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