恋の音

 観月はじめという男性が好きなのだと気付いて、二月ほどたった。 初めて恋は、戸惑うことも多いけど、
うれしいことの方が多かった。
 それは、いつだって観月も同じ気持ちでいてくれるから。

  観月が微笑んでくれるとうれしい。
  一緒にいない時は、今どうしてるのかな、なんて考えてしまう。
 会えるとわかったら、何十キロでも走って会いに行けそう!
 そんな気持ちを、観月はうれしいと言ってくれる。「ぼくも同じですよ」って。

  いつも自分を喜ばせてくれる観月に、何かお返しがしたかった。


「ねぇ、観月さん。今ほしいものって何ですか?」
テニスの練習が終わった帰り道、ふたりで公園に寄って一休みをしていたときのこと。観月は目をぱちくりさせて、
巴のまあるい黒い瞳を見た。巴はそれを少し焦れったく思う。
「もしかして、ぼくの誕生日プレゼントのことですか? きみにもらえるなら、何だってうれしいですよ」
優しく微笑んで、巴の黒髪をなでる観月。その行為にはたっぷりと愛情が込められていて、
巴は無条件に抱き付きたくなる。けれども、今日は我慢した。
「だめですよ。いっぱいいろんなこと考えてるのに、なんでもいい、なんてあたしの苦労はどうなるんですか!」
「そんなこと、ぼくに言われても…。ぼくはきみに祝ってもらえるだけで、ほんとにうれしいんですよ」
「うそ!」
「うそってなんですか…」
 観月はいよいよ困った表情をした。巴は真剣なまなざしを向けて
「だって、あたしが観月さんにできることなんて、精一杯お祝いするくらいしかできないんですもん!
普段お世話になってる分を、あたしが観月さんを好きな気持ちで返したいんです!」
観月はその瞬間、動きを止めた。何のリアクションもない観月を不思議そうに見る巴。
「…わかりました。では、ぼくのことが好きという、きみの気持ちをいただきましょう?」
 観月はそう言って、巴の身体をそっと抱き寄せて柔らかな頬に唇を寄せた。触れるだけで離れたぬくもりは
あまりに唐突で、巴はぼんやりと離れていく観月の整った顔を眺めるしかできない。

「今日はほっぺで我慢しますが、誕生日には唇をいただきますね」

 そう言って笑う観月を見て、初めて巴は顔を真っ赤にした。
「み、観月さん!! な、何言って…! そんなのプレゼントになりませんよ!」
「おや。嫌ですか?」
観月は一瞬傷ついた表情をしたが、巴は気に留めずに首を横にぶんぶん振った。
「逆です!! そんなのあたしがうれしいだけじゃないですか! 観月さんに喜んで欲しいんです!」
 巴の発言に、今度こそ観月は動きを止めた。
「…ほんとに、これが自覚なしで言ってるんですから、厄介ですよ…」
「観月さん! ちゃんと聞いてますか!? もー! なんでいっつもそんなに余裕なんですか!
あたしが子どもだと思ってるんでしょ!」
「余裕? ぼくが?」
観月は心底心外そうに言った。そして巴を思い切り強く抱き締める。慌てる巴。
「み、観月さん…!」

「こんなになってるぼくが、余裕に見えます?」

  混乱しながら、巴は観月の腕のなかで速くて強い鼓動を聞いた。ドキドキというふうに聞こえる。
いま、自分も同じ音を奏でているから、よくわかる。

これは、恋をしている音だ。

しかも、自分のよりも、ずっと速くて強いような気がする。
冷静になって観月の顔を見上げると、白い肌がぴんく色に染まっている。じっと見つめる巴の視線に
気が付いた観月は、照れくさそうな笑みを浮かべた。
「きみの前では、ぼくもただの恋する男なんですよ」
  そう言って、巴の肩に顔を埋めて、はやく誕生日にならないかなぁ、なんて呟く。

ずるいや、観月さん。何だか、観月さんの方があたしのこと好きみたい。

もう、プレゼントは絶対もらってくださいよ!

 おわる

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