シスターの少女 第14話


 殺される。

 静は、必死で村を走った。なるみから、逃げたかった。

「逃げ出すって事は、どういうことかわかってる?」

 どこからともなく、なるみの声が聞こえた。追ってきているのだ。全力で走っている自分を。気配を完璧に消して。その事実に、静はただ恐怖した。

「リオ派は、戦うことでしか生きられなかった者たちの集団。そして、それだけに戦いは潔いもの。」
 少女の声なのに、静には死神の声に聞こえた。
「リオ派で、戦うことは生きるのびること。そして、それから逃げる者は。」

 銃声が、一発。

 ただその一発で、高速で回転している静の左足を打ち抜いた。派手にすっ転ぶ静。しかし、それでもなお、静は逃げ出そうとした。死神の手から。
 なるみは、“光太朗”の実弾の全てをはずし、一つだけ弾を込めた。見るものがいれば、あまりの手際のよさに感嘆を禁じえなかっただろう。

「戦いから逃げることは、死ぬ、ということよ。」

 なるみは、民家の屋根から飛び降りる。着地と同時に、人ならざる身軽さで静の懐に入り込み、鳩尾に足のすねを思い切りねじ込んだ。派手に吹っ飛び、民家の壁に激突する静。間を置かずに静の額に愛銃“光太朗”の口をあてる。
 間近で見ると、化け物のようにでかい6インチマグナム。
「俺は・・・!生きたい・・・!そのために、戦ってきた!リオ派にもいたんだ!!」
 最早、静は恐怖のあまり命乞いもできなかった。何故、こんなことになったのかしか頭にない。
 なるみは、興ざめしたかのような冷たい視線を静に向けた。
「あんたは、この村の人を何人殺した?何故殺した?」
 あまりに容赦のない響きに、静はぎくりとした。
「決まっている・・・。逃げなかったからだ。」

「そうね。逃げなかった方も悪い。人は、生まれてきた限り、何をしてでも生きようとしなければならないから。」

 それは、金の髪と雨の降る空の色の瞳をした、少女の言葉。

 なるみは、濃い茶色の瞳を静に向けた。
「けれど、それは自分が生きようとしているとき、その障害となりえるものだけを排除する、いわば最終手段。で、村の人は、あんたに一体なにをした?」

 静は、言われている内容よりも、言っている本人に恐怖し、何もいえなかった。何か言わなければいけないと思ったのに、何も言えなかった。
「何もしていない人間を殺して回って、リオが喜ぶと思った?恥知らず!!」
「俺は!!リオの理想を、信念を!!実現しようと!!」
「誰が、誰にそんなことを命令した!?」
 有無を言わせぬ、怒りの声。
「理想や信念を他人に強制する事は、リオが最も嫌った手口よ!それは!とりもなおさず、あたしたちリオ派が、その犠牲者だったからじゃない!!」
 朗大統領は、確かに立派だろう。でも、それだけしかないなんて、おかしいじゃないか。前時代の政治形態が理想だというのは、絶対なのだろうか?
 常に、それはリオが主張していたことだった。

 静は、うなだれた。最早、彼は異教徒でしかなく、背信者だった。

「俺は―――」
 なるみは、撃鉄をあげる。
「俺は、それでも―――」
 なるみは“光太朗”の引き金を引いた。

 バガァンッ

 硬い破裂音と共に、静の後ろにある民家が一瞬で瓦礫になった。

―――弾の火薬量は通常の3倍。弾にネジのような螺旋状の切れ目を入れて回転数と速度をあげ、破壊力を上げた殺人弾。なるみのハンドメイドだ。

 静は、崩れる民家を背後で感じながら、なぜ、自分は無傷なのか疑問に思った。

「生かしてあげるわ。昔の同胞としてね。」

 静は、気を失って、なるみのその台詞を聞かなかった。



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