シスターの少女 第2話


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 なるみが目を覚ますと、目の前に「赤」がいっぱいに広がっていた。
 反射的に殴り倒した。
 「赤」が倒れたので、身を起こして周囲の状況を確認する。なるみはベッドの中にいた。部屋は質素な木造だが、どうやら宿屋のようで清潔にはしてある。外からは大きな音や争うような音は聞こえない。静かだ。いや。静か過ぎる。教会の鐘の音が町中に響く。
「・・・どこよ。ここ。」
「・・・気がついたか。」
 足元から声がした。見ると、足元に「赤」が寝そべっていた。否。「赤」はれっきとした人間だった。髪と瞳が、真っ赤な男。長い肢体をぐたりと横たわらせて、なるみに踏み付けられていた。
「・・・あんた誰?」
「あんたの命の恩人だ。」
 なるみは薄い胸を張った。
「助けてくれと言った覚えはない!」
「じゃあ、俺を助けてくれ・・・」
 静かに赤い男は涙して、少女に踏みつけられている自分を憐れんだ。

「それで、ココは?」
 気を取り直して居住まいを正した男に、なるみは気軽に尋ねた。渋い顔をする男。それでも律儀になるみの問いに答えてやる。
「鳥取砂丘の近くの村だ。この町に向かってる途中でお前が倒れていたから連れてきた。」
「そう。ありがと。」
 一応、礼を述べる人間性を持ち合わせているらしい事に、男はほっとした。人外の者を助けてしまっては町の人間に申し訳がないと思ったのだ。
「あんたは?」
「俺は龍石(ロンツェン)。神話とかの調査をしながら、人を探して旅をしている。お前は?」
「あたしは朝日 なるみ。シスターよ。」
「ああ。」
 なるみは、ほこりっぽくて薄汚れてはいたが、黒い修道服を着ていた。こんな時勢ではあるから“自称”ではあるだろうが、何か理由があるのだろう。
 なるみは茶の瞳を、龍石の赤い瞳に向けた。まだ幼い。
「さっき、人を探してるって?」
「ああ。母から伝言を頼まれていてな。俺は会った事がないんだが・・・。」
「・・・そっか。でも、お母さんの知り合いなら、もう・・・。」
 なるみは、暗い表情になった。彼の母の知り合いなら、もう生きてはいまい。地球上は「こどもの国」なのだから。
 なるみは、自分の母を思い出そうとした。思い出せなかった。はぐれたのは、4歳の時だった。
「いや。俺の母は気まぐれだが、無駄な事はさせない。きっと生きてるんだろうさ。」
 龍石は大した事もなく言った。なるみは、龍石はお母さんを覚えているんだ、と羨ましく思った。
「それで?誰なの。その探している人って。」
「“ミヨ”という女なんだが・・・」
「関東政府の“神代”元帥!?凄い人と知り合いなのねぇ!あんたのお母さん!」
 なるみは大きな声で言った。目を見張る龍石。
「知ってるのか?」
「え?ああ。名前だけね。関東政府の医療班班長で、元帥のひとなんだって。一般には名前までは出てないのかな?」
「そうか・・・!関東政府!ずっと九州をうろうろしてたから気付かなかった!」
 龍石は、心底嬉しそうにしている。なるみは、あまりの喜び方に、こちらまで笑ってしまいそうになった。
「ま、助けてもらった礼ってことで。」
「ああ。有難う。それにしても、関東政府にくわしいのか?俺は元帥の本名なんて聞いたこともない。こちらでは特に。」
「昔、ある人に叩き込まれたのよ。」
「?そうか。」
「行くの?神奈川だけど。」
「ああ。今のところ、一番それっぽい情報だ。」
「そ。ところで、ものは相談なんだけど。」
「なんだ?」
 なるみは、物凄く真剣な表情をして言った。
「・・・ごはん、おごってくれない?」

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